文庫本で入手したこの本の題名の猫は大きい文字になっている。
主役は猫。そういうことなのだろう。
写真の撮影は岩合光昭氏による。このひとの猫の写真集は沢山出ているので、
何らかの形で目にしているひとも多いのではないか。
カレンダーも何種類も出ているし、氏のサイトもあって写真集などを
紹介したりしているし、猫の撮影者としても広く知られていると思う。
地中海とその周辺の国々、そして猫。
さまざまな風景のなかに、またひとびとの生活のなかに、当たり前に
猫がいることの羨ましさを感じるが、映っている猫たちはどこか、
人間?それがどうしたの?
といった風情である。漁師さんから魚を貰ったり、店先の売り物に
まぎれていたり、賑わう道や絶壁のような壁の上にいたり、どんな
場所にいてもどこかさあららぬ体である。
その猫を撮っている岩合氏の風貌は、写真で見る限り、
アシカなどの大型の哺乳類といった感じであった。
大きい動物がなにやらぴかぴか光る機械とともに自分たちに忍び寄る。
猫としてはどうなのだろうか。
巻末に養老孟司が解説を書いているのだが、やはり大きな、しかし
静かな動物をご本人と会った上での感想としているので、
同じような感じを持ったのだろうと想像した。
紺碧の空と海。白い建物。そして猫。
そんな写真もあれば、コロッセオや街角にも猫の姿をとらえている。
写真に説明書きでもあるキャプションがついているのだが、その
表現がまた秀逸なのである。写真家の目は形には残らない物まで見ているようで
ある。
文章も何ページか書かれているが、それを単独に読んでもまた
面白いと思う。
ただそこにいるだけでいい。
猫の魅力はさまざまな猫好きの語るところだが、それを
ひとびとの生活の中や素晴らしい景色とともに
シャッターでおさめたこの写真集。
手元に置いておきたい一冊である。