さて、時刻は夕方六時を十数分過ぎた頃。
「失礼いたします」という仲居さんの声が部屋の入り口前から聞こえる。
「少々お早いのですが…」男性と一緒である。こちらは記念写真を撮ってくれるというので、
まあいいかな、とお願いしておいた、カメラマンなのかどうか…寡黙な男性で、料理を運ぶ
のは仲居さんである。写真は帰宅前に見て失笑。モデルに難ありであった。
さて、食事前に温泉につかり、さっぱりしたところで待望の夕食を、という普段は味わえない
温泉宿ならではの幸せな瞬間である。
夕食の一部をご覧あれ。
写真の右の皿に、ホロホロ鳥のささみのお刺身が。湯にさっと通しているだけなので、殆ど
生であったが、なかなかの美味。キジ科の鳥であるという。ますのお刺身、刺身こんにゃくなどと
一緒に、ごまだれで戴いた。
山の幸がメインのお造りである。
デザートを入れて12の皿数。
ホロホロ鳥のすき焼きか海鮮鍋を選べたのだが、少々あまのじゃくな筆者は海鮮鍋を選んだことを
微妙に後悔した。然しその後の揚げ物に感動。鮎の開きあげ。これがなかなか、さっぱりと、
しかも細かな骨が軟らかくなっていて、ししとうとまいたけとみそだれの調和もまた宜しからずや、
という美味しさ。以前から使っているという富士をモチーフにした、四角の皿と、アユとみその色が
合っていて見た目にも美味しい。仲居さんにそんな事を云ってみる。ちょっと嬉しそうな笑顔になる。
美味しいので自分も笑顔。
白ワインをグラスで注文してみた。女将さんお薦めの、食前酒のワインと同じメーカーの物を
飲んだ。水のようにすーっと喉を通る。美味しかった…フクイクたる香り、辛口の白の魚料理と
合う、口当たりの良さ。料理を引きたてる。最後はピオーネをひと房食べて、夕食は終わった。
満腹満腹。満足である。
翌朝八時。まだ空気の冷たい外を通って、朝食はお食事処へ。昨日より、山の稜線が
はっきりしている。朝食の目玉は、こちら。
手前の鮭は、粕漬けのようで、なかなかいけた。卵焼きは、食事の途中で、板前さんが
タイミングを計りながら焼いてくれる。ほやほやの卵焼き。大根おろしを添えて。
味付けは砂糖であった。塩味が個人的には嬉しかった…ふわふわで、美味しかったのだが。
部屋に戻り、部屋から、山頂だけ見られるという富士山の方を眺めると…
濃淡が実物はもう少しはっきりしていたかもしれないが、一番奥の、ひときわ高い薄い稜線が
富士山頂である。見られました。晴天でも、なかなか見られないんですよ、と
旅館のひとが言っていた。気分がいい。
あとはお土産探しである。
旅館を後にして、事前にチェックしておいたお土産物と食堂などがある「里のえき いちのみや」に。
左から、くろ玉、ほしぶどうに、甲州カステラ、すもものジャム。
桔梗屋の信玄餅を買うことも考えたが、プリンにしてみた。帰ってから食べたら、
まさにとろけるプリン。それに大好きな黒糖の蜜が。美味しく無いわけがないのであった。
実は、お土産を二か所で見たのだが、その中間で、さるワイナリーを訪れた。ティスティングも
出来て、なかなか入手出来ない、甲州ワインをゲット。しかも其のワインが、世界にも知られて
いて、そこにたどり着くまでが一つのドラマのような話が、ワイナリーで持ち帰った
新聞の記事に載っていたのである。このことはまたいずれ書いてみたい。
人生は旅だと言う。出会いもまた人生の中にある。物や景色や動物とも触れ合え、骨休めにも
なった、楽しい旅行だった。