仕事はいろいろやっていた。過去形で書いたが少しずつ続けている仕事もある。
派遣に登録して仕事を貰うことが何年も続いていた。メインの仕事は別にあったのだが
諸事情により、事務や販売など、自分に出来る仕事を受けていたのであった。
そんな中で比較的長くやっていた、テレフォンオペレータについて書いてみる。
これは受信と発信と二種類があるのだが、発信の方の仕事を請けていた時のこと。
仕事は企業に向けてのアプローチ的な仕事で、要は営業補助である。
大抵、この手の電話はどの部署においても煙たがれるのでかける側と
しては歓迎されていない場合はあっさり切り上げる、のがポイントである。
また、こちらへの対応で、その企業自体の体質までうかがいしる事が出来たりもする。
あくまで慇懃無礼な応対もあれば、要件を伝えた途端、言葉遣いや声のトーンが
急変する先もある。声も応対も柔らかく、気遣いの見える対応もある。
そんな中、やるなあ、というできごとがあった。
まず架電すると、受付か総務らしき女性が電話を取った。この件についての担当者の方がお手すきでしたら、
取りついで頂けませんでしょうか。といったお決まりの文言を言うと、少々お待ち下さいませ、と
ちょっと取りすました感じの声で答え、内線につないでいる様子である。相手に電話を切られない限り、
こちらから切ることは原則としないからそのまま待っていると「お待たせいたしました。社長秘書の
○○でございます」といかにも仕事の出来そうな男性に変わった。やられたなあ…と思ったものの、
話を進めないように言葉を選んで、また改めさせて頂きますと言って切った記憶がある。
営業的な話を社長に通すというのも無いではないが、大抵はそれ以外の部署で受けるので、これは
受付の女性のいたずらというか、ちょっとした意地悪ともいえると思う。
結果には結びつかなくても延々と話しを続ける相手もあって、ある時どこかの研究室の職員の
ひとが、30分近くも話しつづけ、話自体は面白かったものの切るに切れず閉口した。
なんとか話を終わらせる方向に持って行ってやっとの思いで受話器を置いたら、上司が笑い
ながら「えらく気に入られたね」と言っていた。
まあひとそれぞれ、状況もそれぞれであろう。しかし、たかが電話とはいえ、相手は人間。
さまざまな人達と交流出来る仕事であったし、いろいろ勉強にもなった。
そしてまた、声だけでのやり取りでは、視覚的に騙されない分、却って相手がよく
「見える」こともある。そこが面白く、また、難しい部分でもあるのだ。