幽山秘記

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これは、諸星大二郎のマンガの一編である。

聊斎志異という、中国の幽霊や仙人や化け物、その他、奇怪な現象や話を集めたものがある。

こちらをベースにして、「ほしいままに」作った(諸星大二郎の言葉より)、その第一巻が、

聊斎志異-「異界録」だ。これは、何度も読み返して、なおも読み飽きない、諸星マンガ

の中でもとりわけ好きな作品集だが、第四巻までしか出ていないのが惜しいところだ。

物語は、途中から、見鬼と呼ばれる、幽霊や怪異を見る能力を持った、阿鬼(あき)と

いう子供と、五行先生という、優れた道士が中心となって進むのだが、この二人も諸星大二郎

の創作である。

表題の幽山秘記という話が、なかなか秀逸なので、書いてみる。

時代は唐。長安に李吉というひとがいた…彼は若いのだが、世間にほとほと嫌気がさし、神仙の道

をこころざすようになり、やがて、ひとりの神仙に会いに深山に赴く。そして不老不死の法を学ぶ

為に、弟子にしてほしいと頼むのだが、神仙は一笑して、俗界に戻るよう彼に勧める。でも李吉は

あきらめない。その仙人がいる山に辿りついたのも並のものには出来ぬこと、ならば、神仙になれ

る、そのチャンスをお前にやろう、と神仙は言う。お前は今夜、荒れ寺に一晩泊まりなさい。

やがて、李吉のいるところに、二人の神がやってくる。その二人の神は言い争いを始める。

その一人は善神、一人は悪神である。それがどちらかを見極め、善神を助けたら、お礼に

不老不死の法を教えよう、という。そしてその為に、仙人は李吉に宝剣を与えるのだが…

さて、李吉は善神を助けられるのか。俗界を捨てると言った李吉にある感情が残っていた、

それがどういう結果を生むか…しかも、そのことは、中国史上でも有名な話に結びついて

いくのである。

この短い、20ページにも満たない掌編は、凝縮され、旨味に満ちている。

阿鬼の話もまた楽しいし面白いし、そしてところどころが、怖い。

読書はこれだから止められない、そんな諸星大二郎の、聊斎志異シリーズである。

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