最近、読書というと、エッセイや漫画などを読むことの方が
増えたように思う。合間にぽつぽつと小説を読まないでも
ないが、以前よりは読むことが明らかに減ったように思う。
折しもたまさか、都筑道夫の「退職刑事」という推理小説を
入手してこれを読んでみたら、結構面白くて、どんどん
読み進んでいる。
これがきっかけになって、永年の愛読書である
岡本綺堂の「半七捕物帳」を読み返し始めた。
何をおいても、まず、面白い。このひとことに尽きる。
コナン・ドイルと同時代を生きていた綺堂は、江戸の末期の残滓の
まだ消えやらぬ明治初期の生まれである。
英国公使館勤務の、もと御家人の父を持つ綺堂は、若い頃、
ドイルのホームズ物などを原文で読んでいたという人物であった。
綺堂の捕物帳は、日本で最初の捕物帳とも呼ばれ、西洋の模倣から
始まった推理小説というのに留まらない、優れた作品群であると思う。
文章が良い。自分の言葉にたいする趣味と合うことにも
依るのかもしれないが、あたかも呼吸をするように文章が読める。
謎解きに加えて、半七とその手下の下っぴき、半七の妹、
事件にかかわり合いのあるひと達、その当時の江戸の
風俗や景色、人間と自然の多彩さが、事件の面白さと
からみあい、絶妙な味わいを生んでいる。
小説家として、日本では誰が好きかと問われれば、
躊躇うことなく、名前を挙げるひとり、それが
岡本綺堂である。
他にも小説や随筆も書いてはいるが、やはり、代表作
としてはこの「半七捕物帳」になるだろう。
全六巻、文庫本で発刊されている。