なんとも不可思議な話があったものである。
猫も年を経て化ける、などと言われるようになると可愛いではすまなくなってくる、
そんな語り口から始まるこの半七捕物帳から取り上げたい「猫騒動」。
なにしろ、この猫騒動のために人が二人、命を落とした、というのだから物騒極まり
ない。
猫騒動 あらすじ
四十代で亭主に死に別れたおまきというばあさんが頓死した。それがものがたりの
発端だ。
彼女には五人の子供があったが、女手一人で育て上げたものの子供運によくよく
恵まれず、2人は死に別れ、2人は生き別れる始末。ただ、末っ子の二十歳になる
七之助だけは、魚商をして、おまきに良く孝行していた。
近所のひともうらやむような評判の孝行息子の上、性質が穏やかで、皆からも
好かれていた。
一方のおまきは、ひとつだけ若いころからの癖があり、それが年を取るにつれて
高じてきた。猫が好きな彼女はどんどん飼い猫を増やし、近頃では親猫子猫合わせて
15、6匹にもなっていた。ただ飼うだけで済めばそれでよかったが、
数が数だけに、猫たちは近所でも餌をあさったりいろいろな悪さを働いたりした。
そのことが原因で、事件が起こるのである…
ちょっとした怪談話のような要素もはらんでいるこの短編は、なかなかに味わい深い。
そのうえ、きっちりと終わっていない部分もあり、妙な味わいの後口が残る話、なのだ。
猫が事件のカギであるからだろうか。
他にも半七捕物帳には猫が出てくる話がある。動物の話もちょこちょこ見かけるので、
それをまとめていずれご紹介するのも良いだろう。
春ではあるが、ちょっと身震いの出るような話である。