当番の掃除を終えると、ケンイチは一目散に下駄箱を目指しました。
大急ぎで上履きを脱ぎ棄て、スニーカーを履いて、雨の止んだあとの道路の埃のにおいを
吸い込みながら、空き地へ大急ぎで向かいます。
待ち合わせの時間にはまだまだ余裕がありました。
今日も友達より先に空き地に来ましたが、友達がくるのが昨日より
ずっと待ち遠しく感じられました。
ケンイチは枯れ樹の少し大きめの幹の乾いた部分に腰をかけ、ランドセルを
草むらにおいて、まだ雲の残る空を眺めながら、友達を待ちました。
20分ほどたった頃でしょうか。草むらから声がしました。
「にゃーーーお」
ケンイチは、その声の方に駈け寄って、猫を抱きあげました。
「やっぱり来てくれたんだね」
ケンイチは満面の笑みを浮かべ、喜びに顔を輝かせながら、胸が熱く
なるのを感じました。
「ニャー」
白に薄茶色のぶちがところどころにある、ちょっと薄汚れた、まだ大人に
なりきってはいない猫でした。
ポケットに忍ばせておいた煮干しを猫に数匹与えると、猫は旺盛な食欲で、
それをあっという間に食べてしまい、ケンイチを見上げました。
「ニャー」
「ごめんね、それしかないんだよ」ケンイチが申し訳なさそうに言うと、猫はそんなこと
気にしないで、とでもいうかのように、ケンイチの足に、尻尾をたてて、身体を
すりよせました。
愛情をあらわす、猫の、しぐさだそうです。
ケンイチはそんなことは知りませんでしたが、さっき感じた胸の熱さが
塊になったようで、照れるような、嬉しいような、そしてちょっと悲しいような、
妙な気持になりました。
暫く一緒に遊んで、猫が、じゃあね、というように、すっとどこかに行ってしまうと、
ケンイチも、自分の家に帰る時間だと気付いて、友達と過ごした楽しい時間を
思い返しながら、家への道を歩きました。