「黒後家蜘蛛の会」のアシモフ

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アシモフという小説家を考えた時、惜しむらくは、あるテレビ番組の出だしを

想起するひとが日本では多いかもしれないと思う。

ここ十年ほどテレビを観ない自分にはその番組が未だ続いているかは

分からないが、SF、ミステリ、科学など多岐に亘るジャンルの本をものし、

聖書にギリシア・ローマ古典にシェークスピア、そして、あの「銀河帝国の興亡」

のもととなった「ローマ帝国興亡史」を13歳位までには読破していて

(伝記に書いてあるのだが今手元にないのでいずれ確認する)しかも多くの

書物を諳んじていたという、それがアイザック・アシモフである。

「黒後家蜘蛛の会」は、ミステリが大好きだというアシモフが、エラリー・クイーンズ

ミステリ・マガジンのエリノア・サリバン編集長に短編を依頼されたのがきっかけで

書かれたミステリである。

自分好みのミステリを書きたいというアシモフの理想は、ミステリが変わってしまった

と彼が嘆く数十年間に変わることなく、エルキュール・ポワロと彼の灰色の脳細胞で

あった。

そしてアシモフ自身が所属する私的なクラブの設定を元に書かれたこのミステリの

際立った特徴は、談論風発の面白さ、痛快さである。

中には謎解きよりもそちらを楽しみにしている読者がいるという、とは作家本人の

言葉でもあるが、私もあれこれ歯に衣着せぬ、雑談の面白さは抜群だと思う。

そして会員たち…時々人数は変わるが大抵は六名の面々をご紹介する。

画家でお洒落にはちょっとうるさいゴンザロ、威風堂々たる様子の特許弁護士

アヴァロン(SF作家のハインラインをモデルにしているらしい)、化学者で三文小説

マニアのドレイク、これまたSF作家がモデルのルービン、数学者(ハイスクールの

教師)のホルステッド、そして政府の機関に勤めているトランブル。

彼らのやり取りはお互いに遠慮のない口説に発展しそうなものでさえあるが読んでいて

爽快極まりないのだ。

そして、その日招いたゲストの話の謎解きをすべく奮闘するのだが、

話の流れに会話を取り交ぜ、時にはそれを糸口に、そして最終的に

謎を解く段取りに導く、そんな仕掛けがまたなかなか楽しくもあるのだ。

一巻だけではまだこの「黒後家蜘蛛の会」の面白さに磨きがかかるまでは

行っていない気がする。アシモフファンである私でも、二巻目位から

アシモフが乗って書いていると感じるし、したがって話が面白くなって来る

のだ。

なにはともあれ、昔風の「安楽椅子探偵」がお好きな方なら一読を

お薦めする。つっかえることのない翻訳が見事であるし、アシモフの

SFにミステリの要素があることの答えがここにある気さえするのだ。

完結することもなく、続編が全て訳されることなく終わってしまったのが

なんとも残念だが、創元推理文庫から、五巻、発刊されている。

アシモフのSFがお好きならなおさらお薦めしたい推理小説である。

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