本当に久し振りにマクベスを読んでみた。かなり詳細なこの劇についての
記載があって、それを読んで改めてこの劇も含めてシェイクスピアを良く
読んでいたころの読後感を思い出し、随分と浅い読みだったと知った。
四大悲劇とは、ハムレット、オセロ、リア王、そしてこのマクベスを指すのだが、
他の三つと比べて一番短く、そして展開の早い悲劇、加えてギリシア悲劇の
要素を含んでいるのがマクベスである。
マクベスはシェイクスピアではお馴染みの妖術、亡霊、そして自然現象として
かみなり、稲妻、あらし、などの要素で彩られ、一つの事件を展開させていく劇で
ある。
主人公であるマクベスが野心を起こし、その夫人を相談者として彼らの
あるじスコットランド王ダンカンを斃す…
その前後も含めて有名な三人の妖女(魔女とも訳されるようだ)やダンカンの
世継ぎや将軍のマクベス、バンクォウ、貴族たちなどなどの「本人には分からない
心の動き」が巧みに描写されていたり、ギリシア悲劇にならって、王を斃す場面は
劇では直接的でなく、その凶行を待つマクベス夫人の独白と、血だらけの手で
王の寝所から出てくるマクベスと夫人の会話によって、一層の効果を上げるなど、
シェイクスピアの天才がいかんなく発揮された悲劇である。
またこの作品が事情があったとはいえかなり短期で書きあげられたことも加えておきたい。
ダンカン王が「美しい上品な奥さん」と呼びかけるマクベス夫人の王に掛ける言葉の
柔らかさ、和やかな晩餐の場面が、その後の悲劇を読み手が知っていることで
受ける感覚は対比として優れた描写である。そういう読み方を以前は出来なかったのだ。
三人の妖女がマクベスを操ってもいる。そのうちの一人の言葉、
「きれいはきたない、きたないはきれい」
これは一つの真実であると改めて思いもした。
幾多の学者や研究者がこの悲劇のことをさまざまに分析し書いているので
そういった解釈などは先人に任せるとして、読み物としてこの悲劇を
読んだ時、権力に対する人間の欲望、悪行をなす前後の人の心情、
そういったものを感じるようになった自分が歳を取ったのだとも考えた。
映画好きのひとなら、これをもとに黒澤明が撮った「蜘蛛の巣城」を
ご存じだろうか。刑事コロンボシリーズでも、「ロンドンの傘」でマクベスを
演じる俳優と同じくマクベス夫人を演じるその夫人の「凶行」を
観ることができる。
この悲劇のゆくえを是非、原作を訳したもので読んでみて頂きたいと思う。